実習日誌を書いた事がありますか?

実習日誌を書いた事がありますか?

玉井  明
実習日誌を書いているカット  ここに記したものは11日間に及ぶ学生に対してのキャッチボールの記録です。 私はキャッチャーなので、挑発したりなぐさめたり、注意したりとノートで返球しますが、 サインがうまく伝わらないと、こちらもやりきれない事も多々ありました。  今まで大勢の実習生とのキャッチボールをやってきましたが、何人かは一軍で活躍中です。 一人でも障害者側の視点に立った業界人が育ってくれればと願って書いたものでした。

なお、数年前の話なので、記載した諸制度は現在とは異なっています。

1日目
  初日の実習ご苦労さまでした。きっと緊張して、疲れたと思いますが、 あと10日間頑張って下さい。まず日本の障害者の歴史とその社会背景を2時間程度で本格的に学びましたが、 聞くのも大変だったと思います。しかし、過去の歴史から現在を学び取る事は大事なことだと、思っています。 Aさんの言うように過去の障害者の歴史は差別と、抑圧の歴史です。その事は現在においても、形は違いますが、 依然と存在しています。例えば今日、Aさんが私の食事介護を大変うまくしてくれましたが、それは1日、それも実習という中で、 行われたものです。重度障害者が、食事介護を毎日毎日受けるという事は、介護をする側が余裕がある時は、まだ良いのですが、 人間そうそう、余裕がある時ばかりではなく、忙しいとついつい障害者の意思を無視したりします。その事は食事だけでなく、 障害者の全面的な生活全般に言える事です。そこにも差別の根源があるような気します。Aさんもその事を考えながら 障害者とつきあって見て下さい。
2日目
  情報提供の重要さは、Aさんもわかったと思います。ただ情報というのは、一方的なものではなく、 相互に行き交いするものです。例えば、脳性まひ等の言語障害や、脳血管障害等で失語症や意志表現が、できない方からの情報を把握し、 受け止めてよりよいサービスを提供することは、大変むずかしい事です。そういう意味では県内では◎◎市の全身性ヘルパーはより障害者側の要望を理解し、 情報を伝えていく重要な役割をはたしていると思います。これからも、言語障害者や、高次機能障害の方たちの、生活をどうサポートするかが課題だと思っています。
  Aさんも多くの言語障害者と、話す機会を作り、一人一人の言語障害者の特徴をつかんでいく事により、より福祉的な専門家になれるかもしれませんね。
3日目
  自薦ヘルパー(支援費制度以前に使われていた制度)とは利用者自らが選んだヘルパーを継続して利用する制度です。 まず、ヘルパーをやりたいという人と利用者を合わせて、面接を行います。そこで利用者が、どのような事をやってほしいのか、 どれ位の時間がかかるのかを伝えます。その説明を受け、ヘルパーとしてその利用者の介助をやっていけるか、 やっていけないのか判断してもらいます。(面接場所は利用者の自宅が多いようです。)その後、利用者側から自分にあった人を選んで、 ☆☆センターに報告があります。その上で、☆☆センターは希望のヘルパーさんに連絡を取り、市の登録の手続きをします。
  利用者と登録ヘルパーさんとのトラブルがった時は☆☆センターが中に入り調整します。
4日目
  Aさんが、今日やっていた仕事は、事務作業だと思います。かたや、昨日Aさんが面接に立ち会った、 その仕事は、障害者に対しての、直接的なサービスの仕事です。ここでむずかしいのは、☆☆センターのような、スタッフが少ない所は、 事務作業と、利用者へのサービス機能が、分けられなくなり、職員はどちらを優先すべきかを悩む事も多くあります。またその上、 来客者の方への接客業務もおろそかにできないので、より業務が混在してなかなか、どの仕事もはかどらなくなります。予算が許せば、 スタッフを増やし、業務分担を、明確にし、スケジュールどおりやっていくという事が望ましいのですが、なかなかそうはいきません。 一見何をやっているのかわからない☆☆センターですが、職員は時間との戦いを強いられています。
5日目
  実習が始まってから1週間が立ちました。Aさんも慣れてきたと思います。しかし、言葉づかいに若干問題があると思います。 それは、自分より年上の障害者に対して、敬語を使わず、友達のような、話し方をしています。再三注意しましたが、 なかなか直らないようです。これから就職した時に、困ると思うので、注意して下さい。
6日目
  行政と障害者側は、ある程度情報を交換しつつ、政策に参画していかなければ、当事者主体のサービスや、施策が適応できません。 最近は、障害者団体と行政と一般市民を含めて、福祉検討委員会のようなものを作っている自治体も増えました。しかし、そうかといって障害者の意見が、 100%反映するわけではないため、障害者運動が、必要になってきます。例えば、支援費などの問題の時には、厚生省に、全国から1000人を超える障害者が集まって、 抗議行動を行いました。
  その結果としてヘルパーの利用時間数の上限がなくなったり、身体介護と、日常生活支援が重複して受けられなくなってしまった事を取り消させたという成果があります。
7日目
  Zさんの自宅は障害者住宅で、車いすで入れるように、段差がありませんし、扉も広いと思います。ただ、障害というものは個々個人で様々なので、 改造が、必要になってきます。例えば、Zさんの所では、入浴するリフターがあると思いますが、あれは、後で障害者側が、住宅を改造費や、日常生活支援費などを市役所に、 申請して、認められれば、個人の所得に応じて、自己負担が生じるかもしれませんが援助を受ける事ができます。しかし、情報を知らない障害者は、そういった制度を知らず、 大変な思いをして、生活しています。ここでも情報提供が必要になってきます。☆☆センターとしても障害者に対して、情報を提供していきたいと思います。
8日目
  CP(脳性マヒ)といってもいろいろなタイプがあります。出産時になる人。 早産でなる人。未熟児からなる人。出生後に熱でなってしまう人。髄液の抜け道がないという水頭症も含まれます。
  典型的な脳性マヒは筋肉に緊張が起き不随運動のため日常生活が、大変です。筋肉緊張のため、疲れやすく、 エネルギー代謝も激しいので、老化的症状が比較的、早く出てくると言われています。Aさんの言うとおり、 人間は二点歩行をしているため、普通の人でも、首が痛くなったり肩が凝ったりします。脳性マヒ者は筋肉に緊張があるため、 骨に長い間圧迫がかかり、頚椎がずれて突然手が上がらなくなったり、ころびやすくなったりします。早期に医療ケアを行い、 観察しながら、最終的には、手術を行うケースも最近は増えてきています・
9日目
  地域作業所といっても、肢体、知的、精神の作業所があります。 また、肢体の中でも若い人たちが通う作業所と脳こうそく等の脳血管障害の年齢が違う方が通う作業所もあります。 養護学校など若い人が通う作業所は、これから自立していこうという人たちが多く見られます。 また、逆に脳血管障害の方は今どうやって暮らしていくのかなどの問題を抱えています。
  ◇◇センターは△△県の14団体から構成されています。 ☆☆センターと違い県全体という大きなエリアをカバーしています。現在、地域とは直接関係なく 各市町村で自立生活センター設立の促進を図っていく◇◇センターのような機能を持ったセンターもあります。 また◇◇センターでは自立支援活動の一つとして、Aさんも説明を聞いたとおり、障害者用の外出マップや防災マップ等も作成しています。
10日目
  口述筆記ありがとうございます。おかげで助かりました。 障害者特に全身性障害者にとって、事務をこなすということは大変な事です。 一般的に8時間労働と言われていますが、特に筋肉に緊張がある障害者にとってみれば、 それは10時間分や11時間分のエネルギーを使うと思われます。障害者自立活動センターは多種多様な障害者がいて、 なかなかお互いの障害を理解しているようで、実はわからない点もあります。そういう事があるので、 なるべくピア・カウンセリングを受けたいという方には、よりその相談者の障害や生活暦に近い人を担当にするように努力しています。 しかしなかなかスタッフ不足で、時にはかえってカウンセリング後に不安定になってしまったという苦情もすくなくありません。
11日目
  11日間実習ご苦労様でした。11日間の間に、Aさんもは何か興味がわいた事はあったでしょうか。 こちらとしても、ちょうど忙しく、Aさんをあまり指導できなかった事を反省しています。Aさんが、将来どういう進路を選ぶか、 わかりませんが自分の感覚にあったところを、選ぶ事が大事です。この実習を踏まえ、来年度も頑張って下さい。 たまには遊びに来たり、行事などの時にはボランティアで参加して下さい。相談したいことがあったら、いつでも来て下さい。
  まあ、人生は長いのでゆっくり考えて、Aさんのペースを大事にしながら、何かをつかんで下さい。 最後に言葉づかいだけは気をつけて下さいネ!
評価
  実習はAさんとして最善を尽くしたと思います。人の話しを聞いて理解しようという姿勢がAさんの態度の中から感じられました。 実習日誌にもそのことが良く反映し的を付いた文章が書いてありました。ただAさん自体あまり漢字を使わないので、他所の実習先でケース記録や引継ぎの時の 記録などを書くことが多いので漢字検定四級程度がとれるような勉強も必要だと思います。人との接し方ですが、Aさんは温和で大変人なつこい性格なので 年が離れた高齢者の方々には親しまれそうな気がします。しかし、ことば使いを知らないため、先輩や上司との付き合いはかなり苦労するのではないかと思います。 今から敬語や尊敬語を自然に出るよう日頃心がけて下さい。Aさんは高齢者関係のボランティアをやって見るのも良いでしょう。話題をいっぱい持つ事も大事でしょう。 とにかく11日間のセンターでの実習で障害者にとって今何が一番重要なことかが少しでも解って頂けると幸いです。

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