脳性マヒ者と付き合うための8か条

脳性マヒ者と付き合うための8か条

2004年2月 脳性マヒ者暦54年  玉井  明
  1. ノバに駅前留学しているように気長にヒアリングして言語障害をマスターして下さい。
    ただむずかしいのは、一人一人言語障害のスタイルが違うので、じっくりつきあって、その人の特徴をつかんで下さい。

  2. 脳性マヒ者は音や振動に反応しやすく緊張を招くので、後ろから声をかけたり、肩をたたいたりしないで下さい。
    せまい道でのクラクションや、対向車の排気音が緊張を招き、体のバランスがくずれるので、介助人は、その事を留意して下さい。

  3. とにかく指示を良く聞いてから動いて下さい。
    よく、間がもたなくて、勝手にどんどんやってしまう方もいますが、脳性マヒ者の障害の特徴は、いろいろです。特徴に応じて介助の方法も違います。詳しくは、本人に良く確認して下さい。

  4. 脳性マヒ者の特徴を理解して下さい。
    脳性マヒ者は緊張のため、顔面を歪めたり、手足を突っ張ったりするので、よく酔っ払いと間違われたり、怖がられたりします。 暗闇で歩いていると、子どもや若い女の子が私の姿を見て、避けて行きます。
    また、緊張のため、口腔の筋力のバランスが悪く唾液のコントロールが出来なくなります。そのため、 通称ヨダレが出てしまい、引いてしまう人も多々います。
    しかし、そういう、いろいろな文化をもった人類がいるという事を認めて慣れて下さい。

  5. 緊張しないようにと言われると余計に、緊張が強くなるので、例えば入浴や、食事介助の際は、会話や音楽などを聞いたりしながらリラックスさせて下さい。
    突然ガバッと介助に突入する方もいますが、かなり信頼関係にヒビがはいります。
    また、自分で食事をとる時や、字を書く時に、うまくやろうと思えば思うほど、緊張が激しくなり、食べ物をこぼしたり、 細かい字が書けなくなります。

  6. いきなり熱いものやアイスキャンデイのような冷たいものを黙って口に入れないで下さい。
    人間誰しも知覚反射がありますが、脳性マヒ者は不随運動を誘発するので、気をつけて下さい

  7. 目が覚めて急に着替えを始めないようにして下さい。
    脳性マヒ者は目覚めると、筋肉緊張のため血管が細くなっているため、なかなか動けません。急に動くと気持ち悪くなる人もいるので、布団の中でのウォーミングアップを確認して下さい。

  8. リハビリと称し、長い時間をかけて日常生活動作(食事・着衣・着脱等)を押し付けないで下さい。
    基本的に脳性マヒ者は息をはく時、緊張する人が多く全部はききれず、肺の1/3程度しか使っていないそうです。したがって、はけなければ、生理的に吸えない事になります。 そのため、酸素供給量が一般の健常者と比べて少なくなります。最近その事がわかるようになりました。例えば計算的には一般の労働時間が8時間だとすれば、その3倍のエネルギーを消耗していることになると私の主治医のドクターが言っていました。 更に怖い事には、長年の生活動作によって、中高年になると、首や腰の骨の変形からくる神経圧迫が二次的な障害を招きます。若いうちからトータルな人生設計を考えて行く事が大事だと思われますし、介助する方も、その事を考えながらサポートをお願いします。

    ◎最後に
    全身性障害者は脳性マヒ者に限らず、労働能力(物=労働対象に対して働きかける行為)が弱いため、 介助者を使います。 障害者が欲っしている行為を実現するためには労働手段として介助者が必要になってきます。 目的を実現するために、介助者は労働対象(物)とのあいだに入り、障害者の能動活動に代行して働きかける 事になります。

    このことを理解して頂きたいのです。 なぜかといえば、基本的にこういった分析がなされないために、障害者・介助者・健常者 間でイザコザや誤解が頻繁に起きているからです。 例えば介助者が疲れてくると、自己決定権がなくなる立場に追い込まれたり、言語障害があるために、 赤ちゃん言葉で話しかけてこられたり等、苦難の連続です。

    長い間、介助は善意やほどこしと捉えられてきましたが、それだけでは、 介助者と障害者の対等な関係が得られないと感じています。真に対等な関係を築くには上記のような 労働手段としての介助という経済学的な視点も必要だと私は思っています。

    名目的には選挙権があったり、 雇用機会均等法や、まちのバリアフリーが叫ばれ、福祉サービスの選択者としての位置付けがされています。 しかし、実質的には、残念ながら私たちの意識の中には社会構造的に培われてきた差別意識が幽霊のごとく無意識に存在し、平等な市民権を阻んでいます。
    地球人として対等な立場でつきあいたいものですね。

共生社会までのプロセス
(私なりに、共生社会までのプロセスを図にしてみました。)

共生の社会
  • 差別
  • 偏見
  • 労働能力
名目的市民権 障害の事実
現代社会


和光大学の篠原睦治氏は下記のように指摘しています。
記) 健全者社会の支配、抑圧を批判しつつも、結局のところ、障害者社会と健全者社会社会の共存を提起しているようである。しかも(・・・中略・・・)「障害」=「個性」論に立ち、「障害」と「健全」を並列化してしまっている。 健全者社会が、その生産主義、効率主義の中で、「障害者」を診断と判定を介してわざわざ作り出してきた事実に関する批判ないし反省はあり続けなくてよいのだろうか。(・・・中略・・・) 「個性」も「自立」も、健全者社会に包摂されつつ、(関係や状況を無視した)個人還元主義と「多様化」という名の分断に寄与していくと思われる。つまり「個人の自立」ということがテーマ化されているが、 それは、共同性や相互関係性を後退させつつ、「自力と競争」という健全者社会にとって都合の良い事態に加担していくことにならないか。それこそ、このことは、障害者のみに要請されていることではない。 現代社会に生きる誰に対しても、同様に期待されていることなのである。

※記)篠原睦治 和光大学 人間関係学部人間関係学科教授 『ピア・カウンセリングを考える』より

全身性障害者の理解を深めるための参考著書

前ページに戻る